大きな地震のニュースを見るたびに、「もし自宅の窓ガラスが割れて降り注いできたら…」と不安になることはありませんか? 窓は光や風を取り込む大切な場所ですが、ひとたび災害が起きれば、家族を傷つける「凶器」に変わるリスクをはらんでいます。
「うちは網入りガラスだから丈夫でしょ?」 「雨戸があるから大丈夫じゃない?」
そう思っている方は、少し危険かもしれません。 実は、ガラスの種類や構造に対する「思い込み」が、逃げ遅れやケガの原因になることがあるからです。
この記事では、サッシ屋として数多くの現場を見てきた私が、「地震における窓ガラスの本当のリスク」と、プロが推奨する「現実的な3つの対策」を解説します。
フィルム一枚からできる対策もあります。ぜひ、ご自宅の窓を確認しながら読み進めてください。
まずは現状把握。「あなたの家の窓」は地震に強い?弱い?

対策を講じる前に、まずは今ついている窓ガラスが「地震に対してどういう性質を持っているか」を正しく理解する必要があります。 特に誤解が多いのが「網入りガラス」です。
普通の透明ガラス(フロート板ガラス)のリスク
多くの住宅で使われている一般的な透明ガラス(フロートガラス)は、地震対策としては最も弱い部類に入ります。 地震の揺れでサッシ枠が歪み、ガラスに圧力がかかると、鋭利な刃物のような大きな破片となって割れ落ちます。
これが夜間に発生した場合、床一面に散らばったガラスの刃が避難経路を塞ぎ、裸足で逃げようとして足を深く切る事故が発生します。 このタイプのガラスの場合は、何らかの対策が「必須」と考えてください。
網入りガラスは「地震用」ではありません
よくある最大の誤解がこれです。 「ガラスの中に金網が入っているから、強くて割れないんでしょ?」
はっきり申し上げますが、網入りガラスは「防火用(延焼防止)」であって、「地震用(強度重視)」ではありません。
確かに、金網がガラスを掴んでいるため、割れた時に破片が飛び散りにくい(脱落防止)効果はあります。そして厚みが6.8mmあるので分厚い分頑丈ではあります。しかし、それでも、地震に強いガラスにはなりません。経年劣化で内部の金網が錆びて膨張し、地震がなくても勝手に割れる「錆び割れ」のリスクもありますし、見えない部分に亀裂が入っているとしたら地震の振動で大きなひび割れとなるでしょう。
「網入りだから地震が来ても絶対に安心」というのは過信です。あくまで「火事の時に炎を通さないためのガラス」だと認識してください。
サッシ屋が推奨する「窓の地震対策」現実的な3つの選択肢

では、具体的にどうすればいいのか。 予算と目的に合わせて、プロが推奨する3つのレベルの対策をご紹介します。
【Lv.1】飛散防止フィルム(DIYまたはプロ施工)
最も手軽で、今日からでもできる対策です。 窓ガラスの室内側にポリエステル製のフィルムを貼ることで、万が一ガラスが割れても、破片が飛び散るのを防ぎます。
- メリット: ホームセンターなどで数千円で購入でき、賃貸住宅でも施工可能(剥がせるタイプあり)。
- 注意点: 自分で貼る場合、気泡が入ると見栄えが悪くなるだけでなく、本来の強度が発揮できないことがあります。また、フィルムには寿命(約10年〜15年)があり、貼りっぱなしにすると劣化して効果がなくなります。
「まずは寝室の窓だけでも」という場合の第一歩としておすすめです。
【Lv.2】合わせガラス(防災安全合わせガラス)への交換
サッシ屋として最もおすすめしたいのが、この「合わせガラス」への交換です。
合わせガラスとは、2枚のガラスの間に強靭な樹脂膜(中間膜)を挟み込んだ構造のガラスです。自動車のフロントガラスと同じ作りだと思ってください。 このガラスのすごいところは、「バールで叩いても1発、2発では貫通しない」ほどの粘り強さです。
- 地震対策: 割れてもガラス片が中間膜に張り付いたままなので、ほとんど飛散しません。
- 飛来物対策: 台風などで瓦が飛んできても、突き破って室内に入ることを防ぎます。
- 防犯対策: 空き巣がガラスを割ろうとしてもそう簡単に穴が開かないため、防犯ガラスとしても最強です。
今あるサッシの枠はそのままで、ガラス部分だけを「合わせガラス」に入れ替えることが可能です(※サッシの種類によります)。根本的な解決を望むなら、これが正解です。
【Lv.3】内窓(二重窓)を「防災仕様」にするという選択肢
「断熱リフォーム」として大人気の内窓(二重窓)ですが、実は選び方一つで強力な地震・防災対策になります。 ただし、単に内窓をつければ良いわけではありません。プロとして、一つ上の提案をさせてください。
普通の単板ガラスの内窓では「地震対策」としては弱い
通常、内窓には「単板ガラス(普通の1枚ガラス)」や「一般複層ガラス」が使われます。 これらは断熱性は高いものの、割れにくさに関しては外窓と変わりません。
地震で建物自体が大きく歪んだ場合、外窓と一緒に内窓の枠も歪み、両方とも割れてしまう可能性があります。また、室内でタンスなどの家具が倒れて内窓に直撃すれば、当然ながら粉々に割れてしまいます。 「二重になっているから安心」とは言い切れないのが現実です。
内窓のガラスを「合わせガラス」に変えると最強になる
そこで私が推奨するのが、内窓に入れるガラスを「合わせガラス(または強化ガラス)」に指定するという方法です。
内窓のガラスを飛散防止効果のあるものに変えることで、以下の「最終防衛ライン」が完成します。
外からの飛来物、万が一、外窓が割れて瓦などが飛び込んできても、内窓の合わせガラスが貫通を食い止める。 室内からの衝撃:家具が倒れてぶつかっても、ガラスが飛び散らず、避難経路を塞がない。
断熱効果で光熱費を下げつつ、家族の命を守るシェルターを作る。 PGガラスと比べると数千~数万程度でガラスのグレードを上げられることが多いので、内窓を検討する際は必ず見積もり時に相談してみてください。
シャッター・雨戸は必要?後付けのメリット
窓ガラスそのものの強化に加え、物理的に窓を塞ぐ「シャッター」や「雨戸」は、やはり最強の防御策です。
地震の時は、揺れだけでなく、屋根瓦が落ちてきたり、近隣のブロック塀が倒れてきたりと、予期せぬ「飛来物」が窓を襲うことがあります。 これらをガラスだけで防ぐには限界がありますが、シャッターがあればガラスに到達する前に衝撃を受け止めてくれます。
今はリフォーム用の「後付けシャッター」が充実しています。 壁を壊さずに、今のサッシの上から数時間で取り付けられる製品(YKK APのマドリモやLIXILのリフォームシャッターなど)が主流です。 特に就寝中の無防備な時間を守るため、寝室の窓だけでもシャッターの設置を検討する価値は十分にあります。
地震発生時、窓ガラス周辺で絶対にやってはいけないこと

最後に、実際に地震が起きた時、窓ガラス周辺でどう行動すべきかをお伝えします。 良かれと思ってやった行動が、大怪我につながるケースがあります。
揺れている最中に窓を開けに行かない
「避難経路を確保しなきゃ!」と焦って、揺れている最中に窓を開けようとする方がいますが、これは非常に危険です。
サッシ枠が歪んで開かなくなっている可能性がある。 上からガラスが降ってくる可能性がある。
揺れが収まるまでは、窓から離れて身を守ることが鉄則です。 また、避難する際も、歪んで開かなくなった窓を無理やりこじ開けようとすると、その拍子にガラスが砕け散ることがあります。ドアが開かない場合の最終手段として窓を使う場合は、靴を履き、ガラス部分を毛布で覆うなどして慎重に行動してください。
避難時は「底の厚い靴」が必須
ガラス対策をしていない場合、避難経路はガラスが散乱していると想定してください。 スリッパや靴下では、鋭利なガラス片は簡単に貫通します。
枕元付近に「底の厚いスニーカー」や「踏み抜き防止インソールを入れた靴」を常備しておくこと。 これが、窓対策と同じくらい重要な備えです。
まとめ
窓は、普段は光を取り込む心地よい場所ですが、地震の際には家の中で「一番弱い場所」になり得ます。
網入りガラスだから大丈夫という思い込みを捨てる。 まずは寝室だけでも飛散防止フィルムを貼る。 リフォームのついでに、合わせガラスや内窓で強度を上げる。
「割れないようにする」だけでなく、「割れても安全な状態にする」ことが、地震対策の核心です。 いつ来るかわからない災害に備えて、まずはご自宅の窓の種類を確認することから始めてみてください。

